久しぶりに小説でも!
って思ってポチッとしたのがこの作品です。
「桐島、部活やめるってよ」
「何者」
など、作者の作品はいくつか読んでまして。
いつも安定の面白さなので、ビジネス系の本を立て続けに読んだちょっと硬くなった頭をほぐしてもらおうと思いました。
例によって、内容は読んでなくて、内容というかあらすじですね。あらすじは読んでなくて、表紙とタイトルだけでポチりました。
すると、少し驚きの事態にはなりました。
①小説ではなくて、作者の自伝的エッセイ。
そう、実は全く小説ではなかったです。
作者が学生時代から、直木賞をとって、本格的に作家への道に踏み出したあたりまでの軌跡が書かれております。
なるほど、僕はあまり年齢とかにこだわらないというか、そこまで深く考えてないんですけれども、どうやら作者はゆとり世代のようです。
で、自らのことをゆとりと言う。どちらかといえば、悪い意味で捉えられがちな言葉を使っています。
作者の人となりが、僕がいくつか読んだ作者の作品に、なんとなく繋がっている感があるエッセイ集になっています。
②ナナメの夕暮れと逆。
読んでて、とにかく面白いです。
まぁ、自虐ネタが多いんですけれども、それでもやっぱり直木賞作家が本気(?)でお笑いに特化した作品を書くとここまで面白いのかって感動しました。
エピソード自体は、それほどとんでもない事件が起こるわけではないんです。
ですが、その一つ一つの事件を自虐を使って最大限までおかしく伝えます。
前に読んだ若林正恭の作品、「ナナメの夕暮れ」と全く正反対な気がします。
「ナナメの夕暮れ」のような、自己を深く抱えて爆発させるようなエッセイとは違います。
根がかるくて、ふわって出てきたかのような明るいエッセイです。
③成瀬とも逆。
なんとなく、「成瀬は天下を取りに行く」とも逆な気がしました。
成瀬は女性だし、何かを思いついたり実行したりするのは、基本的に一人なんですよね。
友達を巻き込む事はありますが、それもM-1に出るためにやむなしみたいなところがあるし、もし、その友達が断ったら「そうか」とか言って諦めると思うんですよね。
ところが、色々面白い目に遭ってるこの作品の作者は、ひとりの匂いが全くしないです。
それこそ1話目の胃腸が弱い話からそれは見受けられました。
どこか行ってる時に、バスに乗ることになった作者一行。
ところが、もうすぐバスが来る頃になって、胃が主張をし始めて、次の目的地までには胃がもたないと判断した作者。
トイレに行きたいが田舎なため、近くにトイレが見当たらず焦ります。
このバスを逃すと、さらに長時間待たなければならない。
動きが止まり固まっていると、友人たちが「大丈夫?トイレ?」と声をかけているんです。
で、結果、作者は一目散に民家へ駆け込んでいくんですが…。
これが成瀬だと、一人耐え抜くし、耐えずにトイレを借りに行くにしても周りに軽い戸惑いを与え、どこかクールに借りに行くと思うんですよね。
この作品のゆとり世代のゆるい繋がり。
成瀬の世界、もしくは世代のゆるい個々。
なんか、ちょっとしたコントラストを感じました。
いつまでも、ずっと読んでいけるエッセイでした。
この、ちょっとした日常を面白おかしく描写するのって、ダウンタウン世代のお笑いに近いんですよね。
ダウンタウン、お笑いの幅が広すぎて、常人には理解できないどぎつい下ネタとか、引くほどの攻撃的なお笑いに注目されがちですが、真骨頂は横山やすしにも怒られたといわれるチンピラの立ち話なんですよね。
日常のちょっとしたエピソードを面白おかしく、風味を何十倍にもして、味を整えて出してくるんです。
僕らでも、学生時代、学校のお話でも楽しいのは友達がこんなことがあったとか、これが面白いとかまぁちょっとした日常の話だったりしますよね。
ダウンタウンは、その場所からできるだけ遠くならず、漫才といった、もともとダウンタウン以前にあった形式にとらわれず、新鮮さ。保ったまま、あたかも昨日経験してきたかのように繰り出す漫才を真骨頂にしてたと思います。
特にダウンタウンの初期の頃の漫才はこんな感じだったと思います。
例えばクイズネタとか。
テレビが最強の時代で、みんなテレビを見てた時代にはやってたクイズ番組。学校でも話題になってたであろう、日常からの発想の転換ですよね。
ダウンタウンのフリートークでもそうです。
めざましテレビの星座占い。松本人志の乙女座が、いつも11位とか12位だったかそんな話。
今は超有名になった。3月は寒いからとか。
新幹線の席が違うおっさんにとられていた話とか。
そういったダウンタウンの初期のお笑いのエッセンス。
これがこの作品に、自然にちりばめられています。
これは作者の固有の才能なのか、ゆとり世代にダウンタウンお笑いが染み込んでいるのか、どっちなのか??
その辺を知りたいなと思いました。
とにかく作者の魅力が詰まっている作品です。
ではまた。