この作品。
なにが興味深いって、実際に人類が月に行く、15年ほど前に出された本だという所です。
第二次世界大戦までは恐らく史実通りの展開ですね。
ヒロシマってかたちで日本も出てきますし。
ここで使われた最悪の兵器、原子力ってのが、人類が地球を飛び出すうえで重要な技術を作中では担っています。
人類が初めて月へ行くという、フィクションを、実際に人類が月へ行った後に読むお話ってのは、何かやっぱり面白いですね。
あと、よくわからないことに関する人類の妄想というか、想像。
これが読み物としてまとめると、こんな面白いんだなってなり、改めてSFの良さを知った作品です。
①意外と重要な動機。なぜ、月へ行くのか?
なるほど。実際は、アメリカがソビエトとの軍事なり宇宙なりの競争で、思いっきり無理して月へ行ったんですけれど、作中では違います。
わりと平和な感じで、機が熟したから行くんだよ!!って感じでお話が進みます。
世界各国から技術者が集まり、いろんな企業や、もしかしたら国からお金や補助金を集め、それなのに秘密裏に、マスコミに情報を漏らすことなくロケットを作っていきます。
歴史作家の主人公が、この歴史的偉業を後世に伝えるために、記録係として色々な人に話を聞きます。
そこで、主人公がこだわるのが、なぜ月へ行くの??です。
はじまりとして、なぜ人類は月へ行かなきゃならんのか?
ってのをどうしてもあかさないといけない。
色々な人にお話を聞き、それぞれ色んな動機を挙げます。
知識のため。
研究のため。
月へ行くこと自体、知識や研究が進み、また月へ行ったことにより、新たに知識や研究が捗るだろ?ってお話。
うん。もっともです。
あとは、文明の性質。
文明は停滞すると、滅ぶ一方ってのを信じてる人がいました。
これは作者の意見でもあるんでしょうか。
確かに、繁栄ってのは分業と交易があって為せる技なので、停滞はよくないですね。
とはいえ、宇宙って…。行き過ぎ感はありますが。
とはいえ、やっぱり説得力があるのが、月へ行く計画してる研究所の所長の考えや行動なんですね。
たまたま科学者なだけの空想家って表現を、主人公にされてたので。
好奇心には勝てないってやつなんですかね。
結局は「そこに山があるから」
それなんでしょうね。
あと、意外に大きかったのが宗教の存在です。
「神が許さない」的なお話が意外とたくさんページを書かれて議論されてた印象があります。
人類は、神様が「そこにいろ!」と言うから、そこにいてるんだ。無闇に動くべきではない!とそんな考え方でした。
でこれに反対する人の意見が、「人間は結局最初はアフリカにいたり、ヨーロッパにいたりしたんだけれども、結局いろんなところに移動したじゃないか」っていうもの。
なるほど、それぞれもっともって形で。
変化に対する人間の考え方っていうのがそれぞれ鮮明に表れてる感じがして好きでした。
②作品の中の動力源と、実際の動力源。
作品の中のロケットの動力源は、どうやら原子力のようです。
SFあるあるで、細かい技術描写。
これは細かい人、もしくは技術に造詣が深い人しか反応できないと思ってて、どちらでもない僕はざっくりとしてか理解してません。
作中、どうやら人類は原子力を平和転用してものすごくうまく活用しているようです。
…。これ、秘密も何も、もし仮に何らかの実験をして失敗したら、目も当てられない状態になりそうですよね。これはもう漫画というか小説でよかったって形なんでしょうかね。
まぁこういう細かいところにも現代の読者は気になってしまうので、今はダイナミックなSFっていうのは出てこないのかもしれないですね。残念な事に。
とは言え原子力の怖さもある程度、しっかりと描写されています。
物語の最後の方、原子力エンジンに無意味に近づいた人が被爆して死んじゃったりもしています。
さて、月へ実際へ行った際の動力源なんですけれども、原子力ではないです。
ウィキペディア的に書くと、↓
サターンVロケットの燃料は、1段目にケロシンと液体酸素を使用し、2段目と3段目には液体水素と液体酸素を使用しています
のようです。
③序曲とは・・・
序曲。そう。この序曲って意味が物語の最後にわかってきます。
これも面白いですね。この物語では月へ行くのは本当にただの序曲なんです。ここから研究が進んだり、他の月だけでなく、火星や他の星へ向かおうとしたりする足がかりなんですね。
これが実際と違うっていうのが悲しいところです。
実際では月へ何度か行った時点で、宇宙競争は終わりを迎えて、序曲どころか終幕を迎えました。
今、人類が初めて月へ降り立ってから約60年が経って、ようやく起業家で空想家のイーロンマスクが、本気で月なり火星なりへ行こうとしていますが、こちらもなかなか進んでなさそうですね。
実はもう行く寸前だったりしたら面白いんだけれども。
そんなわけで、お話は面白かったです。
ただ、やっぱり最後の序曲ってところ。
作品の中では、重力が少ない中で生活をすると、人類の病気の進行が遅れたりするようで、寿命が長くなってるって、夢が広がる、まだまだ序曲っぷりを発揮してました。
主人公の記者がその恩恵にあずかってるんですよね。月の基地かどっかに居を構えてます。心臓かな、どっかに疾患があって、地上なら余命レベルだけれど、重力の負担が少ないと、その疾患がそこまで脅威じゃないってお話がありました。
さて、現実。
月に行っても実際には何もなかったし、人類には負担がデカすぎたっていう、悲しさが勝っちゃいましたね。
作品の中で、
昔の大移動。(船や徒歩)にかかった時間を考えると、月へ行く時間は同じくらい、何なら短いくらいだって描写がありました。
おお!!確かに!!って思ったんですが・・・。
昔の大移動には奪うものがあったが、宇宙にはなかったんでしょうね。
これが、身も蓋もないところですね・・・。
昔の大移動も、奪うものがなけりゃ、シンプルに滅んでたかもですからね。
それでも行くのが人間でもあります。
エベレストとか、いくら上ったところで、ヤバいだけなのに行ったりしてますからね。そりゃ景色はいいかもですが、住むには適さないですからね。
とはいえ、エベレストは個人単位ですが、宇宙は個人単位ではなかなかいけないですからね。イーロン・マスクが頑張ってますが・・・。
あと、作品の中では、月に行き、惑星間を旅行するようになれば、人類の精神レベルというか、そういうのが変わる!!って期待してるんですよね。
そのあたり、「幼年期の終わり」の作者だなぁって思うんですが・・・。
いや、人類は移動してもそこまで変わらん!!
って僕なんかは思うんですけれどね。
ほら。それこそ人類がアフリカから世界へ散っていった。
つまり移動しまくったようですが、基本、狩猟時代からこっち、遺伝子レベルではほぼほぞ何も変わっていないようですからね。
だから現代病みたいなものが多いわけで・・・。
と、色々思うところがあった作品でした。
では、また。