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おすすめしたい本でした!
【22】発酵文化人類学 小倉ヒラク 著
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浩哉
2024/03/27

読了しました。

IMG_5639.png

発酵自体は、味噌汁やお酒など、発酵としか言い難いものなんですが、その発酵。奥が深い世界です。


発酵=微生物といった、わかっていない事が多すぎる世界。

こういう世界に身を投じる事が出来るのって、ワクワクしますよね。

そのワクワクを隠しきれない作者が書いた本。

やっぱり面白かったです。


    〜〜個人的な見どころ〜〜

 ①お酒のお話

やっぱり発酵のお話として避けられないお酒のお話。

これも基本のキから語られており、参考になります。

お酒の作り方の違いで、日本酒やウイスキー。醸造酒と蒸留酒。

酵母の種類によって味わいが変わったりするっていうのを改めて知るってのはいいですね。

こういう図もあってイメージもつかみやすくなってます。

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お酒や味噌汁、その他発酵食品を微生物の行動レベルで語ったりするので新鮮でして。意外とそっちの方がわかりやすく、ピンと来るんですよね。

発酵食品について、ふと思ったときはこの本を開くのがいいと思いました。


 ②発酵と自然

発酵って、ほんと奇跡の自然現象ですので、それに対峙していく人々も、自然に対して敬意を抱くようになります。

次世代の発酵作りのパイオニア達にインタビューしているんですが、どの方も

菌に気持ちよく働いてもらう。

菌の環境を整えているだけ。

といった感じで、菌に対するリスペクトが半端ないんです。

大いなる自然を感じる、立派な人はこういう対応になるんだろうなってのが納得できます。


最近のトレンドも知れて良かったりします。

ワインや日本酒。どう変わってきてるか。

これもそういやそうだな!って心当たりがあり、この世界も進化してるし、さらに面白くなる世界なんだなって思います。


あと、触れられてはいなかったですが、最近はクラフトビールとかもありますね。

牛タン屋さんの利久のクラフトビール、わりかし好きだったりします。


 ③発酵文化人類学。

発酵は奥深いです。

まだわかってないことが多いっていうことは、色々改善の余地があります。

また、作者が人類学者だったりもするからでしょうか。色々発酵とは直接関係ない社会活動について語られるのも面白いです。


例えば、

ニューギニア島東部にあるトロブリアンド諸島に住む各部族によって営まれる「クラ」という交換文化です。

ちょっと説明が難しいので、長いですが本文↓


「複数の島々で構成される円のなかを、赤い貝の首飾りを時計回り、白い貝の腕輪を反時計回りにしてぐるぐる回し続ける不思議な交換ゲームです。

このクラというゲームの参加者Aは、自分の持っている首飾りか腕輪を隣接した部族に渡す。渡された側の参加者BはAにお返しの贈り物をしなければいけない。そしてBはその隣のCに首飾りか腕輪を渡す……という交換と贈り物が延々と繰り返される。  

この「クラ」というゲームにおけるポイントは3つ。  


1つめ。交換の主体となる腕輪と首飾り自体に価値はない。贈り物をお返しする時のパーティにアクセサリーとして身につけていく程度で、普段は使われない。  

2つめ。この無意味なアクセサリーに対する「お返し」は、贈られる側が各自で「お返しとしてはこれが妥当だろう」と思われる品々やサービスを考えなければいけない。  3つめ。このゲームは一度参加したら、抜けることは許されない」


要は隣の島の人と交換会をしていきましょうってお話です。ただし、交換するものはアクセサリーのような装飾品で、食べ物とか種とか実用的なものではない縛り。


で、これの意味が、

① 異なる人間同士のコミュニケーションを円滑にする。

②争いを回避する。

ってなります、

この文化が、なんかすごく印象に残ってます。

ここから、人間=コミュニケーションなんだ!ってなり、

そこからさらに発想を拡げて

地球全体=コミュニケーション。

しかも、微生物がマネージャーとして〜…。

ってなっていくんですが。


それでもやっぱり、この島の文化。ええなって思うんです。

こういう絶妙なルールを作った人、誰なんでしょね。

人類が繁栄したのは、交換と専門化があるからってお話がありますが。

それをルール化して、しかも平和のおまけまでついてくるんですからすごいですね。

その分、平和すぎて文明的にはどうか?ってのもありますが…。


ただ、そう考えると文明の発達って、戦争によって生まれてきたことのなんて多いことか!って思ったりしますね。

いや、僕は文明大好き。SF大好き。スマホ手放せない人間ですけどね。


     〜〜まとめ、雑記〜〜

この地球で圧倒的に数が多い微生物。

この視点から見てるこの作品。面白いです。

その意味でも、発酵食品ってだけでなく、たまに読み返したくなるんだろうなと。


 あと印象に残ったこと、2つほど。


 そもそもの生物の意味について。


これは太陽からのエネルギーの分配、交換だとよく言われますよね。

どう効率よくエネルギーを保っていくか?みたいな。

エントロピーに逆らう!みたいな。


この作品は、そのエネルギーの管理してるのが微生物だって主張。

これも面白いです。

で。なるほどって思ったのが、

植物は光合成して、二酸化炭素を酸素にします。

人間とか、他の生物は酸素を吸って、二酸化炭素を吐きます。それでお互いエネルギー交換し合ってバランス取れてる!って認識の人も多いと思います。


が、よく考えたら、それだけで生き物のバランスなんてとれるわけないですよね。もちろん、光合成も重要ですが、

なにより微生物の分解能力が無ければ、この世は死体や糞尿だらけになります。

微生物はなんでも食べて、分解し、生き物に有用、必須なものに還元していくと。


そういえば、人間に必須な何かの栄養素も腸内細菌が作ってるって話も聞きますね。


発酵=酸素も光も使わないエネルギー獲得法。

これがなんか凄いって思いました。

発酵が奇跡と呼ばれるゆえんですよね。


 資本主義に対するひとこと。


麹菌っていうのの作成方法のかにも関係するからでしょうね。

作り手と受け手。この辺りがしっかりと把握しやすい商売だからか、資本主義的な大量生産、大量消費の弱点をキレイに披露していました。


囲い込みって表現を使ってますが。

以下本文↓

「囲い込むこと」が極端になりすぎると、プロが大量生産するものを、素人がお店で買うという関係性しかなくなる。

最初のうちは、以前よりもたくさんのお金が生まれて新しい市場が生まれ、消費者は便利になり、メーカーも利益を出せる好循環が生まれる。

 しかしだよ。それが行き過ぎると今度は悪循環にはまってしまう。

 買うだけで、自分でつくらなくなった消費者は「味噌とはそもそも何なのか」を忘れてしまう。

すると「よくわからないものだったらなるべく安いヤツにしよう」ということになり、メーカーもそのニーズに答えて、原料や製法を妥協した安価な商品を大量供給してしまう。

やがて「メーカーは不当に儲けようとしている」「消費者は味の違いなんてわからない」というすれ違いが生まれてしまう。そのすれ違いを放っておくと、いつしか文化そのものが消滅してしまうかもしれない。それはとても残念なことだ。


だから作者が味噌作りとかで主催してるDIY。

そういうのが重要ってお話になります。


ただ、これは発酵ものだけじゃないですよね。

アプリ、PC、映画、歌、本。

普段、消費するものでも、自分で作ったり書いたり歌ったり演じたりすると、やっぱり消費にわずかでもですが重みが出てきて、その重みが重要になってくると思います。


あと、文化が消滅してしまうかもって書かれてますが、下手すりゃ乗っ取られるかもしれませんしね。

昨今のアニメやゲーム文化のように。


なので、このあたりが個人的に激しく同意ってやつでして。

ちなみに、僕はPCやアプリを作る人、演じる人、歌う人を無条件に尊敬してます。

で。往々にして、特に演じる人や歌う人。小劇場や地下の人なんか特に。生活は苦しいんですよね。

好きでやってるからええやんって意見に同意はしますが、それにしても、大変そう過ぎる。


僕も負けず劣らず圧倒的に生活は苦しいですが、

もしなんかのはずみで、買ってもない宝くじが当たってお金をゲットできれば、その人たちのためになんか出来ないか、真剣に考えるでしょうね。


YouTubeとかあるやんっていっても、やっぱり上手くいってる人は一部すぎる印象ありますしね。


そんな自分自身の夢も思い出させてくれた良書でした。


では、また。